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オンボーディング担当者が語る新卒エンジニア研修・育成の悩みと課題【サイバーエージェント×サイボウズ×日本経済新聞社】

新卒エンジニア育成に力を入れている、株式会社サイバーエージェント、サイボウズ株式会社、株式会社日本経済新聞社の3社。今回、オンボーディング担当者の立場から、お互いの疑問や悩みを語り合っていただきました。

※本記事は8/23(水)にSmartHR Space(東京・六本木)にて開催された、株式会社Flatt Security主催イベント「新卒エンジニアのオンボーディングを語らNight」の開催レポートです。

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<3社のオンボーディング担当者が自社の新卒エンジニア研修のコンセプトやノウハウ、課題を語った前編はこちらから>

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プロフィール

株式会社サイバーエージェント 技術人事本部 採用担当兼育成担当 山田翔也さん

2011年、サイバーエージェントに入社。広告部門にて営業、ディレクターなどを経験後、エンジニアに特化した技術人事本部へ異動。約4年の中で新卒採用、中途採用、内定者育成、研修、オンボーディングなど幅広く経験。

サイボウズ株式会社 開発本部 People Experience オンボーディングチーム 久宗大雅さん

2014年にサイボウズに新卒入社。インフラエンジニア/SREを経験した後、2018年に技術ブランディング/関係性づくりなどを生業とするチームへ異動し、技術広報やチームビルディングを実施。2021年にオンボーディングチームへ異動。エンジニアリング組織が強くなるための支援を行っている。

株式会社日本経済新聞社 CDIO室 西馬一郎さん

エンジニア採用担当。採用や社内外でのDevRel活動を通じて組織の強化に努めています。技術書典14に社内メンバーと共に参加しました。「Engineer Onboarding Meetup」の勉強会に行ってました。直近は技術広報の勉強会に頻繁に出没しています。ITコミュニティと銭湯サウナが大好き。兵庫県神戸市出身。

内定者期間中に研修やトレーニングを行っている?

サイボウズ 久宗さん(以下、久宗):そのようなコンテンツが特段あるわけではなく、内定後にインターンやアルバイトとして現場に入っていただく場合が多いです。そういった中で、技術やキャリアの相談を受けて、適宜アドバイスするようにしています。

サイバーエージェント 山田さん(以下、山田):アルバイトは希望があった場合に受け入れている形ですか?

久宗:そうですね。

日本経済新聞社 西馬さん(以下、西馬):私たちも同じような状況ですね。インターンも短期ではなく長期で受け入れており、そこでの経験を通じてチームでの仕事の進め方を学んでもらっています。

山田:内定者であっても、意外と会社のことを理解しきれていない場合もあるので、内定者バイトは会社への理解を深める機会にもなっているように感じています。

ーー時期によっては卒業論文や修士論文等の執筆や卒業研究等で忙しい場合もあると思います。時期的な要因により、内定者の方をアルバイトやインターンに誘いづらいと感じたことはありますか?

西馬:内定者の皆さんは学生であり、学業が本業なので、基本的には学業優先でお願いしています。「論文執筆で忙しく、時間が取れなさそうです」という相談を受けた際は、「では1ヶ月お休みしましょうか」と提案するなど、個々人の学業のスケジュールに応じて柔軟に対応しています。

会社全体としてどのようなオンボーディング体制を取っている?

西馬:私はこの直近2年、新卒エンジニアのオンボーディングを担当していますが、毎年メンバーを変えながら進めています。配属後に関わる機会が多いと思われる先輩社員や、新卒入社後2〜3年目の若手社員を中心にメンバーを集め、これまでのオンボーディングを振り返りながら、より良くするためにはどうすれば良いか議論を重ねてきました。若手からベテランまで様々なメンバーに加わってもらっています。

エンジニア組織の現場で必要だと考え、始めた取り組みだったので、最初からボトムアップで進めてきました。会社の幹部にも必要性をしっかり理解してもらうことが大切だと思っているので、オンボーディングの体制づくりは数年かけてじっくり取り組んできました。

山田:サイバーエージェントの場合は、私の所属している技術人事本部がオーナーシップを持って、各事業部のエンジニアに協力を依頼しています。私のチームのうち、オンボーディングをメインで担当するメンバーは3人で、基本的に採用も担当しています。採用から入社後のフォローまでをワンストップで行うために、このような体制で進めています。

オンボーディングの講師やメンターは、エンジニア育成の観点からも毎年変えるようにしています。あえて未経験のエンジニアをアサインし、チャレンジいただくこともあります。

オンボーディングに社内メンバーを巻き込むコツは?

久宗:サイボウズでは、チーム体験という各チームに受け入れてもらう形の研修を実施しているのに加え、新卒エンジニア研修と並行して配属先調整が走るので、各チームとの様々な調整が必要となります。各社さんでは、どのように周りのチームや社内のメンバーを巻き込んでいらっしゃるのでしょうか?

山田:何のためにするのか、どういう目標を立てるのかを言語化しておくことは非常に重要だと感じています。

サイバーエージェントには「新卒社員をしっかり育てよう」という文化があるので、オンボーディングに社内のメンバーを巻き込んでいくことに対して社内の理解を得られています。とはいえ、準備時間は限られているので、「何を目的に行うのか」「そのプログラムを受けることで、新卒社員にどうなってほしいか」というコンセプトについてはしっかり言語化した上で相談するようにしています。逆に、現場のエンジニアから「こういう課題があるので反映してほしい」という意見をもらうこともあるので、議論しながら調整を行っています。

西馬:私たちはボトムアップで進めているので、オンボーディングの運営に積極的に協力してくれるメンバーばかりです。メンバーの上司にあたる人たちには、オンボーディングの期間や内容などを事前に説明した上で、期間中は通常業務の割合を一定減らしていただくなど、工数調整のお願いをしています。

「早く新卒エンジニアに来てほしい!」と思うチームもあると思うので、新卒エンジニアの配属先になるチームにも必ず説明し、理解を得るようにしています。

講師となるエンジニアの工数をどう確保している?

西馬:サイバーエージェントさんとサイボウズさんでは、新卒エンジニアのオンボーディングの中で開発研修も行われています。開発研修でメンターとなるエンジニアは、研修期間中、付きっきりで対応することになると思います。私たちも以前、開発研修を行ったことがありましたが、メンターの工数確保が難しいこともあり、現在は行っていません。各社さん、どのようにメンターの工数確保を行われているのでしょうか?

久宗:私はオンボーディング専任なので、新卒エンジニア研修に100%コミットできる立場にあるのですが、なるべく多くの人を巻き込んで省力化できるように心がけています。

講師を務めるエンジニアが講義準備に専念できるようにサポートしています。新卒エンジニアにはグループウェア上でやり取りしてもらうことで、メンターや技術的なサポートのような役割を特に設けなくても、誰でもフォローに入れる体制を作っています。

山田:工数確保は、弊社でも毎年課題になっています。弊社のオンボーディング担当者は採用を進めながらオンボーディングも担当しているような状況なので、非常に多忙です。

新卒エンジニア研修の企画は、サイボウズさんと同様、毎年10月前後から始めています。「ただ研修を企画する」で終わらせず、メイン担当者個人の目標の中に、新卒エンジニア研修の目標を組み込んでもらうようにしています。目標を達成できたら評価に反映されるような仕組みです。

研修期間中は一人が研修に付きっきりになるのではなく、何人かで交代して付くようにしています。一人の担当者が付きっきりという形になると、新卒エンジニアにはそのメンバーしか覚えてもらえません。そのため、新卒エンジニアが気軽に相談できる相手が1人だけ、という状況になりかねません。上手く交代しながら対応することで、相談相手になる人事メンバーを増やすという狙いもあります。

西馬:研修期間が長いですが、どのような頻度で交代しているんですか?

山田:1日単位ですね。日直のように、「今日は◯◯さん」「明日は✕✕さん」といった形で交代しています。

西馬:開発研修ではチームごとにものづくりしてもらうので、結構「付きっきり度」が高いのではと思うのですが、実際のところいかがですか?

山田:開発研修では、各チームにメンターのエンジニアが付きますが、あえて「あまり付きっきりにならないように」と伝えています。新卒エンジニアに自走力を身につけてもらいたいためです。付きっきりになると、メンターに何でもかんでも相談したり教えてもらったりするようになってしまうので、メンターとしてチームに付いている時間はコントロールしてもらっています。

技術スタックごとの研修は行っている?

山田:エンジニアの職種や業務に必要な技術スタックが年々どんどん細分化している中で、新卒エンジニア全員をカバーするような技術スタックごとの研修を企画するのは難しくなっているように感じています。

西馬:弊社でも新卒エンジニアの職種は細分化されています。職種ごとに必要な技術スタックの研修を行おうとすると、対象者が1人か2人といった規模感になってしまうので、もう一段階抽象度を上げてコンテンツを検討するようにしています。

例えば、新卒のiOSエンジニアを対象とした研修を検討する場合、iOSそのものを研修コンテンツにするのではなく、Webの基礎やセキュリティについて学んでもらうカリキュラムなどを考えます。SRE領域もセキュリティとよく似ていますが、信頼性や安定性という考え方はプロダクト開発に欠かせないものでもあるので入れています。

個別の技術スタックというよりは、より抽象度の高い幅広い領域をカバーする研修を検討しているのが現状です。

久宗:弊社も個別の技術スタックを学んでもらうという形での新卒エンジニア研修は行っていません。プロダクト開発に必要な前提知識やスキルのレベルを揃えることを目標として研修を組んでいます。

少し大学みたいな形式だと思うのですが、用意している講義の中から自身が興味のある講義に参加してもらうようにしています。ほとんどの人は全ての講義に参加していますね。

どのような外部コンテンツを活用している?

久宗:「これは使ってみて良かった!」と感じた外部コンテンツがあれば、差し支えない範囲で教えていただきたいです。

山田:弊社が外部パートナーさんにお願いしている研修は「KENRO」とAWS研修の2つです。

チーム開発研修では、新卒エンジニア同士の相互理解が必要になってくるので、毎年チームラーニングを入れています。新卒エンジニアそれぞれの考え方や価値観、生い立ちなどを知るためのコンテンツです。

コロナ禍が始まったばかりの2020年に、新卒エンジニア研修を急遽リモートで実施せざるを得なくなった際に取り入れたものです。リモート環境下でのチーム演習だけでは、チームメンバー同士の相互理解を深めることは難しいため、相互理解を促進する目的で導入しました。研修がリアル開催となった現在も変わらず取り入れています。

外部コンテンツと言えるかはわからないですが、2020年当時、別の企業さんで同様の取り組みを行い、成果を上げていたのを見て、それを参考に始めました。人事が講師となり、チームごとにワークショップを行ってもらっています。

西馬:研修コンテンツは基本的に内製ですが、自分たちではカバーできない領域を補う目的で、一部外部コンテンツを活用しています。

弊社では、社内的にもパブリッククラウドの活用が進んできていることもあり、社外から講師を呼んでAWS研修・Google Cloud研修を実施しています。今年の場合、Google Cloud研修は入社後5日間のプログラムの中に入れ、数ヶ月おいてAWS研修をセットしています。

今年から新卒エンジニア研修がリアル開催できるようになったので、先輩エンジニアがおすすめの技術書を持ち寄って輪読する会も開催できています。

また、Udemyも活用しており、おすすめの講座があれば適宜新卒エンジニアにシェアするようにしています。

講師の選定はどう行っている?

山田:講師は各事業部と相談しながら決めています。

例えば、目標設計研修については、目標設計に長けているメンバーに講師をお願いする必要があります。様々な部門にヒアリングし、最適だと思われるメンバーをアサインしています。

「新卒エンジニア研修をみんなで作っていく」というカルチャーが定着しているので、研修の目的や背景となる課題について説明した上で、講師となるメンバーに依頼すると「頼られているようで嬉しい」とポジティブな反応をもらえることが多いです。

久宗:弊社では講師を務めたメンバーを集めて意見交換会を開いています。オンボーディングチームから今後の研修の方向性について相談し、講師から色々なアイデアをもらい議論していくことで、新たな講義のやり方や方針を形にしていきます。誰に講師を務めてもらうかも、その議論の中で調整しています。

西馬:企画段階から講師を巻き込んでいるんですか?

久宗:ある程度、方向性などはオンボーディングチームで決めていますが、ほぼ企画段階から巻き込んでいますね。

西馬:サイボウズさんのやり方は良いですね。

エンジニアに講師をお願いする際、期待値の調整が難しいです。「◯◯に関する1時間の講義をお願いします!」という形で、Slackでお願いすることが多いのですが、講師を依頼された側からは「どのような背景から実施するのか」「何を教えれば良いのか」がなかなか見えづらい場合も多いです。そのような場合はミーティングなどですり合わせを行うようにしています。

講師全員を集めてミーティングをすると、研修全体のコンセプトを全員にシェアできる上、講師同士のつながりもできるのではないかと思います。そこで新しいアイディアが生まれそうですよね。

効果測定はどう行っている?

久宗:新卒エンジニア研修の効果測定に関しては、しっかりできているとはあまり言えない状況です。これから取り組んでいこうと考えています。

現時点では、新卒エンジニアや講師を務めたメンバーからフィードバックをもらうようにしています。それを元に、オンボーディングチームでKPTを使った振り返りをしています。

西馬:弊社も定量的な効果測定はまだできていないですが、振り返りは毎年行っています。

研修期間中、新卒エンジニアには日々のSlackの日報などで振り返りを書いてもらっています。日報に「ここがわからなかった」「ここを詳しく知りたい」というコメントがあれば、周りの先輩メンバーがサポートに入っています。

2023年から、講師を務めているメンバーにもアンケートを実施しました。研修が終わった後、講師に講義の時間や難易度などが適切だったかを聞いているのに加え、運営に対する意見・感想も聞いています。

例えば、「オンラインで実施する研修の場合、参加者の誰が新卒エンジニアで、誰が中途入社エンジニアなのか区別することは難しいが、リアル開催の研修では多少なりとも雰囲気でわかるのでやりやすい」といった意見が挙がりました。

こういった講師や新卒エンジニアからのフィードバックを受けて、研修を毎年改善しています。

山田:定量的な効果を測定するのはなかなか難しいですが、研修が終わって数カ月経った頃に、各事業部に「今一番活躍している新卒エンジニアは誰ですか?」とヒアリングするようにしています。ヒアリングの結果、活躍している新卒エンジニアが目標設計やフォロワーシップ/オーナーシップなどの研修で身につけたスキルを活かしていることがわかると、結果的にその研修に効果があったと見なせるのではないかと考えているからです。

研修を受講した新卒エンジニア全員にアンケートを取った上で、人事内での振り返りと、講師を含む研修に関わったメンバー全員を巻き込んだ振り返りの両方を行っています。両方とも、参加するメンバーの人数が多いこともあり、手早く論点を整理できるKPT形式を採用しています。

新卒エンジニア研修資料を社外に公開する際のチェック体制は?

久宗:サイボウズでは、研修資料に限らず、社内資料を社外に公開する際のルールが整備されています。社外に資料を公開する際に気をつけるべきポイントがまとまっています。

講師のメンバーが研修資料を作成する際も、そのルールを参照してもらっており、事前にチームレビューを通してもらっています。オンボーディングチーム側でレビューを行うことはほぼありません。

基本的には社外公開を前提として作成していることがほとんどですが、研修資料を社外に公開すること自体は目的にしていません。社外に公開しやすくなるような環境を整えることをサポートしています。また、事業ドメインに関する内容が入ってくる場合は社外への公開は控えています。

西馬:研修資料の中に、今後予定している施策などの社内情報が含まれている場合、トリミングが必要になります。

講師からすると、研修が終わってフィードバックもして、「ずっと準備してきた研修がやっと終わった!」と達成感に浸った後、翌日からチームでの通常業務があるわけです。研修資料を後から手直しするのは後回しになり、なかなか対応しきれないのが現状です。

そういった意味で、サイボウズさんのように社外公開のやり方を仕組みとして整えていらっしゃるのは参考になります。

山田:社外に公開する研修資料については、広報にしっかりチェックしてもらっています。そのため、そこまでオンボーディング担当の負担が大きいわけではありません。

一方で、ゼロから資料や記事原稿を作成してもらうことの負担は大きいので、大枠は人事の方で作成し、一部エンジニアに執筆をお願いするようなやり方を取って、なるべく負担を軽減するようにしています。

現時点では、研修内容や研修資料を社外にまだあまり発信しきれておらず、弊社の課題だと感じています。サイバーエージェントの新卒ビジネス職の人材育成に関しては、社外に向けた発信が一定できているように思いますが、新卒エンジニアの育成に関してはまだまだです。今後、社外への発信体制を変えていきたいです。

ーーー新卒エンジニアのオンボーディング、まだまだ話は尽きませんね。山田さん、久宗さん、西馬さん、ありがとうございました!

(取材・文/寺山ひかり)

<3社のオンボーディング担当者が自社の新卒エンジニア研修のコンセプトやノウハウ、課題を語った前編はこちらから>

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